ちょっとしたお話(アレルギー)
勤務医の時の話です。私の外来にいろんなもので痒くなったり赤くなったりするということで患者さんが受診されました。
患者さん:「去年の夏頃から急に体質が変わったみたいで、今まで使っていた化粧品Aを使ったら痒くなってきて、化粧品Bに変えてもなんだか赤くなるし、石鹸Cも痒くなる気がします。アレルギーかどうか知りたくて来ました。」
私:「なるほど。アレルギーかどうか気になりますね。AやBやCに対するアレルギーがあるかどうかについてはパッチテストで調べることができますよ。いくつもの商品にアレルギーがある場合は、添加物などにアレルギーがあるかも知れないので、その場合にはスタンダードパッチテストも検討します。」
患者さん:「・・・。いや、AとかBとかがどうこうというわけではなく、私は自分がアレルギーかどうか知りたいのです。」
私:「ですから、まずAやBやCに対するアレルギーがあるかどうかを検査しようと思うのですが」
患者さん:「・・・まぁ、別にいいわそんなことはどうでも。もういいです。」
結局、患者さんは検査を受けられずに帰られました。よくよく考えると、この方はきっとAやBやCに対してアレルギーがあるかどうかにあまり興味はなく、ご自身が「アレルギー体質になったかどうか」が知りたくて、それが検査でわかるものと思って来院されたのかなと思いました。しかし、現実として「アレルギー体質」という病名はありませんし、上記の主訴からはまずきちんとAやBやCに対してアレルギーがあるかどうかを確認する必要があります。
・・・例えばの話ですが、「私は足も早いし、体育の成績もいいし、運動神経抜群と思うのですが、プロのスポーツ選手になれますか?」と聞かれたらどう答えますか?
きっと「プロスポーツって何の?」となると思います。プロスポーツと一言で言っても、野球もあればサッカーもあるし、ゴルフだってあります。まずどのスポーツの素質があるのかテストしないと何も言えません。「別にどの競技のプロテストも受けてないけど、とにかくプロになれるかが知りたい」と言っても答えられません。
アレルギーについても、「私アレルギー体質ですか?」と聞かれても、「アレルギーって何の?」となります。まずその方が具体的にどういったものにかぶれるのかの検査が必要です。回りくどいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうしないと正確に状態を把握することができません。
また、ある物質にアレルギーがある場合、それに似通った別の物質にもアレルギーを起こすことがあります(例えば、ソフトボールで日本代表になった選手が似通った競技であるプロ野球の選手にもなれた、というような感じです)。逆に一見まったく無関係なようないくつかの物質でアレルギーを起こすことがあり、よく調べるといずれにも同じ共通の成分が入っていたと判明することがあります(例えば、プロ卓球選手がプロボクサーにもなった。卓球とボクシングで一見無関係のように思えるが、細かく分析すると実はフットワーク能力がずば抜けていたのが要因だった、というような感じ)。漠然とではなく、目標をしぼったアレルギー検査をすることで、どういったものを避けるべきで、どういったものは避ける必要がないのか、の判断に役立てることができます。